『クルエラ』が青春時代を過ごした70年代,その時代のファッションはどんなものだったか?

出典:映画.com

 「クルエラ」(2021)

クレイグ・ギレスピー監督

 エマ・ストーン主演

 『クルエラ』は『装苑』というファッション雑誌に取り上げられているのを見てからどうしても見たかったけれど、なかなか予定が合わなくて、見に行けるころには近くの劇場で上映していなかったから、仕方なくお台場まで見に行った。お台場の映画館はショッピングモールの1階にあって、2階は吹き抜けのゴージャスな空間になっているところが気に入った。お台場のショッピングモールはまだ見つくしていないし、また遊びに行ってもいいかもしれない。

あらすじ

 さて『クルエラ』とはどんな映画かというと、ディズニー『101匹わんちゃん』でダルメシアンを誘拐しようとする悪役、クルエラ・ド・ビルを主人公にした映画だ。頭の中央で半分は黒、半分は白の奇抜な髪色で生まれてきたエステラは、見た目に劣らず中身もパンクで、学校に行っても他の子とは同じように振る舞えない問題児だった。問題行動でついに学校を退学させられてしまった彼女を案じ、母親は力を貸してくれるかもしれない人物のパーティーに行くけれど、母親は事故で崖から転落死し(のちに殺害されたことがわかる)エステラは孤児になってしまう。路頭に迷っていた彼女を助けたのは、同じく孤児の2人の男の子。3人は泥棒を生業としながら家族のように成長していく。

 エステラは特技の裁縫を活かし、いつも泥棒をするときの衣装を作っていた。彼女は子供のころから自分の服をアレンジし、ファッションデザイナーになりたいと秘かに夢見ていたのだ。彼女の夢を知っていた仲間は、ある日彼女が憧れるデザイナー、バロネスの職場で働けるよう取り計らってくれる。彼女がそこで任された仕事は掃除などの雑用のみで、ファッションには一切口出しさせてもらえなかった。そんな状況に嫌気がさしていたのと、仕事の失敗で自棄になっていた彼女は、酔っぱらって勝手にショーウィンドウを自分流に変えてしまう。

 ついにクビにされるというときにたまたまバロネス本人が来店して、そのショーウィンドウはこの10年で一番いいと絶賛して名刺を置いていった。エステラは名刺を介してバロネス直属の部下として働くようになる。

 バロネスは実力こそあるもののナルシストで女王様のような性格をしていた。エステラはまじめに働き、自分がデザインした服も徐々に認められるようになっていくが、失くしたと思っていた母の形見のネックレスをバロネスがつけていて、それをどうしたのかと尋ねると母に盗まれたと憚りなく言ったのを聞き、エステラはバロネスを憎むようになる。そして自分の母親を殺したのがバロネスであったことが発覚すると、ついにエステラは「クルエラ」となり、普段は従順な部下、その裏でバロネスと対立するデザイナー「クルエラ」として活動するようになる。

 この映画の見どころはやはり2人のファッション対決で、王道のモードでクラシカルなバロネスの衣装とアナーキーでアバンギャルドなクルエラの衣装。どちらが好きと思うかはあなた次第!

衣装デザイナー、ジェニー・ビーヴァンが作る70年代ファッション

バロネスの衣装

 ジェニー・ビーヴァンによればバロネスの衣装は

「いいデザイナーだけど今では古くさいことや、クルエラとのコントラストを表現するため、50年~60年代の『ヴォーグ』を資料としてクリスチャン  ディオールやバレンシアガなど数多くのデザイナーを参考にしました」

「シルエットは構築的で、ターバンを多用するのが特徴」

「バロネスのカラーパレットはブラウンやゴールドが基調となり、シルバーのドレスなども登場します」

バロネスのシルバーのドレス↓

1955年 クリスチャン ディオールのイブニングドレス↓

クルエラの衣装

「デザイナーでは、当時から素晴らしい影響力を持つヴィヴィアン・ウエストウッドが、クルエラの多くのイメージになっています。ジョン・ガリアーノもインスピレーション源でした。ドイツのパンクロック・ニューウェーヴのシンガーであるニナ・ハーゲンの様相も影響していますね」

「黒、白、ほんの少しの赤色が中心でシャープ」

クルエラのアーミージャケットとラッフルスカートの衣装、アーミージャケットやライダーズジャケットに別のテイストの服を合わせるのは70年代に流行していた↓

ジョン・ガリアーノがクリエイティブ・ディレクターを務めているメゾンマルジェラ、2020年春夏コレクション。シスターのような服の上からライダースジャケットを着ていて独創的↓

出典:FASHION PRESS

あまり映画に出てくる衣装とは似ていないけれど、パンクなアイテムとそれ以外のアイテムをあえて合わせるのが70年代流行っていたのかもしれない。

ヴィヴィアン・ウエストウッドとはどんな人物なのか?

1941年生まれ、イギリス出身。小学校の美術教師をしながら、’71年、マルコム・マクラーレンと、古着やオリジナルの服も扱う中古レコード店を始める。パンクファッションの流行を作り出した後、一転歴史服や民族服から着想したロマンティックなコレクション「Pirate」(’81-’82AW)や「Savage」(’82SS)でファッション界の注目を浴びる。その後は体を意識した造形の探求、英国の伝統の昇華、18世紀の画家アントワーヌ・ヴァトーから着想したドラマティックなコレクションなどを展開。代表的なアイテムに、ジャケットのラベルをハート形にしたラブジャケット、ヴィヴィアン風のグラマラスなワトードレス、クリノリンスカートをミニ丈にしたミニクリコ、コルセット、ブーツに木底をつけたロッキング・ホースシューズがある。

『装苑』2021年5月号 文化出版局 p44ー46

ヴィヴィアン・ウエストウッドの社会的活動

 映画内でクルエラはバロネスのパーティーで自分の服に火をつけて登場したり、バロネスのランウェイをぶち壊しにしてから、激しい音楽とともに路上でパフォーマンスしたりする。クルエラのモデルになったヴィヴィアン・ウエストウッドも、ファッションではないが派手な社会活動をしていて最近ニュースになった。彼女はジュリアン・アサンジをアメリカに引き渡さないためにパフォーマンスを行った。

 ジュリアン・アサンジは2006年にウィキリークスという、匿名での企業企業や国に関する機密情報を公開するウェブサイトを立ち上げた。そこでアメリカ軍のイラク・アフガニスタン戦争での残忍な行動を公開したことなどから、アメリカはジュリアンに対し17件の罪状で起訴し、彼を引き渡すように求めている。有罪と認められた場合、175年の禁固刑が待ち受けていると言われていて、引き渡しの是非を決める裁判の再開を目前に、ヴィヴィアン・ウエストウッドはジュリアン・アサンジに扮し立ち上がった。自らを炭鉱のカナリアに例えて、3mもの高さの巨大な籠に入り人々に警笛を鳴らした。彼女はこのパフォーマンスで知る権利や言論の自由が脅かされていることを訴えている。

出典:AFPBB News

まとめ

今作で70年代のファッションはどう表現されているのかまとめた。クラッシックなファッションとアバンギャルドなファッションの対比を知って、また映画を見返したくなった。

参考文献

『装苑』2021年7月号 文化出版局 p26-27

『装苑』2020年11月号 文化出版局 p106-107

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